秋野菜の準備、その前に。「じいさん、アゲイン」


それは、日曜の晩のことでした。

鳴り出した携帯電話を持ち上げて、呼び出し主名を見て・・・。

「うっ、じいさんだ」やな予感・・・。

「こっ、これじゃぁー、種まけねえだ・・・」
いきなり電話の向こうでじいさんが悲痛な声を上げている。

「・・・・・・?」

「雨が降らなきゃー、種がまけねえだ!」

「雨か・・・。そりゃー、仕方ないねー。こればっかりはねー」

「それじゃー、こまるんだ!水がねーと。根付かねーんだ」

「水ねー・・・」と、のんびりした返事のわたしでしたが・・・。

「なっ、何だとー!今度は水かい」と、こころで叫び、

「とりあえず今晩にでも雨が降るかもしれないので、様子みよう」

「雨が降らなかったら明日の朝に行くよ」やや、やけくそ気味。

「うん」と、じいさんあっさり納得。

しっ、しまった、またやられた。老獪な○○め。






・・・というわけで、5日目とあいなりました。

水のタンクがないので、20ℓのポリタンク2個に水を入れ、往復することに。(実は当日の朝、わざわざ近所の水道設備屋さんで300ℓタンクを借りていたのです。そのことを話したら、「そんな大きいのいらねえ」と一蹴されていたという経緯もありまして)

それでも、自分が食う分だけで少しの面積なので、何とか間にあいました。

種まきも無事に終わり・・・。

「やれやれ、よかったねー。これでひと安心だねー」

今度はじいさん、「でも・・・。きょうはいいよ・・・」

「あしたはどうする?」

「ぁんだって、あしたー???」

「雨が降るまで、水くれてやらなければ、なんねーだ」

「おらー、水運べねーし」「トラクター動くかわからねーだ」

こうなりゃ、絶対にトラクター動かすしか、じいさんから離れることはできない。

目を吊り上げながら、トラクターの手動スターターを何回か回して・・・、

力強いエンジン音とともに、これまた無事に始動しました。





※じいさんの足
三菱G710L



こうして、はれて、じいさんから解放されたのです。

車のバックミラーには、背の曲がったじっちゃんが僅かに屈んだように写った。

やはり、人はひとりで生きているのではないのです。

そこには、人知を超えた“神の愛”が働いているのです。